末梢動脈疾患(PAD: Peripheral Arterial Disease)
様々な要因で、血管の狭窄・閉塞が出現し血流障害が生じます
閉塞性動脈硬化症 (atherosclerotic obliterans: ASO)
主に動脈硬化が原因で、血管の狭窄や閉塞を認め下肢に血流障害が起きている状態です。高血圧・高脂血症・糖尿病・禁煙が病気を増悪する因子と考えられています。
バージャー(Buerger)病、閉塞性血栓血管炎(TAO)
20〜40歳代の男性喫煙者に好発する四肢の非特異的炎症性動脈疾患です。難病として国の特定疾患に指定されています。
急性動脈閉塞
血栓や塞栓が原因で、血管が突然閉塞するため、閉塞部より遠位の部分が壊死に陥る緊急性の高い疾患です。
治療方法
動脈硬化の危険因子を認める場合(高血圧症・高脂血症・糖尿病・腎不全・喫煙)は、各因子に対する治療が必要となります。バージャー病の場合には禁煙は必須です。
保存的治療:薬物療法、運動療法
血管を拡げる薬(血管拡張薬)や血液が流れやすくする薬(抗血小板剤)を服用します。
また、軽症の場合には積極的に歩行を繰り返すことにより症状の改善を認めます。
血行再建術
- 血管内治療:percutaneous transluminal angioplasty: PTA, Stent留置
- 先端に風船や金属の筒(ステント)を装着したカテーテルを用いて、狭窄・閉塞部分を拡張します。局所麻酔で行うことができ、入院期間が短期で済みます。
- 外科的血行再建術
- 人工血管や自分の静脈を用いて、バイパス術を行います。
近年は、糖尿病・人工透析の増加に伴い、膝下に病変を認めることが多くなっております。膝下への血行再建は困難な場合もありますが、当院では、積極的に下腿部へのバイパス術(distal bypass)を行っております。 - ハイブリッド手術
- 多発病変に対して、上記の血管内治療と外科的血行再建術を同時に行います。
大動脈瘤(胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤、大動脈解離)
大動脈瘤
血管は内膜・中膜・外膜からなる三層構造により構成されています。動脈瘤は壁の性状(三層構造のどの部分が病変部位となるか)による分類により真性動脈瘤・仮性動脈瘤・解離性動脈瘤に分類されます。三層構造ともに拡張したものを真性動脈瘤と呼びます。一般的に「動脈瘤」と言われているのはこの分類の動脈瘤となります。内膜に亀裂が入り、中膜部分に血液が入り込み、外膜と内膜が解離した状態を大動脈解離といいます。
大動脈瘤の手術適応
真性瘤の場合、瘤径が増大すると、破裂する確率が上昇します。破裂すると治療が困難で死亡する確立が高くなります。真性瘤は原則として破裂する前に手術を行います。胸部大動脈瘤で6cm、腹部大動脈瘤で5cm以上を手術適応としております。また、動脈瘤の形(嚢状瘤の場合)によりこの基準よりも小さくても手術を行う場合もあります。 急性大動脈解離の場合には、突然発症し痛みを伴います。上行大動脈に解離を認める場合には、緊急手術の適応となります。
大動脈瘤の手術適応
人工血管置換術
従来から行われている治療方法です。開胸もしくは開腹により、動脈瘤部分を人工血管で置換します。
胸部・腹部ステントグラフト内挿術(TEVAR, EVAR)
ステントグラフトとは人工血管(グラフト)に針金状の金属を編んだ網(ステント)を縫い合わせたものです。血管内部より、ステントグラフトを動脈瘤部分に留置します。外科手術による人工血管置換術と比較して体への負担が少ない治療方法です。動脈瘤の形等により適応を決定いたします。
下肢静脈瘤
下肢静脈瘤とは?
下肢の静脈は、下肢の浅い部位を走る表在静脈と筋肉の中などを走る深部静脈に分けられ、穿通枝により繋がっています。筋肉の収縮が静脈を圧迫することなどで血液は心臓に戻り、所々に一方弁が存在し逆流を防いでいます。表在静脈や穿通枝の一方弁が壊れると血液の逆流が生じて、弁が壊れた先の表在静脈に血液が溜まり、徐々に静脈が瘤のようにふくれてきます。立ち仕事などの生活様式や、妊娠、加齢、肥満体型などにより起こりやすくなります。
下肢静脈瘤の症状、診断
下肢の静脈瘤では、静脈のふくらみのために血液の流れが滞り、だるさ・重さ(血液うっ滞症状)、むくみ(浮腫)、かゆみ(掻痒感)、寝ているときの足のつり(こむら返り)、色素沈着、皮膚潰瘍、湿疹などを起こすことがあります。
静脈瘤は見た目(視診)でもわかりやすい疾患ですが、いくつかの簡易検査、血管超音波検査を組み合わせ、表在静脈の幹となる大・小伏在静脈本幹の逆流の有無により、幹の逆流のある伏在型、逆流のない分枝型・網状型・蜘蛛の巣型の判断をしていきます。
下肢静脈瘤の治療
理学療法
すべての型の基本治療となります。
- 日常生活指導:長時間の立位を避け、歩行・足踏みなどにより積極的に筋肉を収縮させ、静脈血が心臓に戻りやすいように促していきます。
- 弾性ストッキングの着用:脚の表面から圧迫し、血液の流れが滞るのを防ぎます。着用により症状の出現や、静脈瘤の悪化を予防します。手術を受ける方も必須です。
手術
伏在型では、以下の方法を超音波所見などをふまえてご本人とご相談します。
- 血管内レーザー焼灼術
- 現在最も治療件数が多い術式です。大伏在型であれば、膝下から針を刺して股の付け根までの大伏在静脈の中にレーザープローブを通し、血管を焼灼します。股の付け根には傷がつかず、局所麻酔で行います。単独手術では30分から1時間ほどで、1泊2日の入院が基本です。
- ストリッピング術
- 膝下から股の付け根までの静脈を抜き去る手術です。股の付け根に3cmほどの傷がつきます。局所麻酔で1泊2日です。
- 高位結紮術
- 股の付け根で静脈を縛り、逆流を制御する手術です。局所麻酔で1泊2日です。
分枝瘤に対する手術
- 瘤切除
- 血管内レーザー焼灼術などに組み合わせ、もしくは単独で、瘤化した分枝を3mm前後の小さな創で切除するスタブ・アバルジョン法での瘤切除を行っています。
- 硬化療法
- 血管を取らずに薬を用いて潰してしまう方法です。血管内レーザー焼灼術などと同時には行わず、単独で行います。