研究/研修について先輩心臓外科医からのメッセージ

加藤 秀之 医師 2002(平成14)年 卒

加藤 秀之 医師

2002年に筑波大学を卒業し大学の外科研修を経た後、筑波大心臓血管外科の門を叩きました。心臓血管外科を選んだ理由は、一通り外科手術を見た中で心臓手術が一番面白いと感じたからでした。心臓血管外科手術の主たる部分は「Reconstruction(再建)」です。あの手この手で再建して心臓に機能を取り戻すのが心臓血管手術の醍醐味です。外科手術にも色々ありますが癌を切除することが目的という手術より、壊れてしまった、機能しない部分を再建するという手術に大きく惹かれました。医者という仕事は一生続けることができるやりがいの大きい仕事です。一生続けるなら面白い方がいいに決まっています。もちろん面白いだけでは心臓血管外科はやっていけません。しんどいこともたくさんあります。私が医者になってレジデント1年目の一番初めに研修した科が心臓血管外科でした。研修初日に先輩医師に挨拶に行った時に言われた第一声は「パンツ何枚持ってきた?」でした。連日で泊まって帰れない日が続くから下着いっぱい持って来いってことだったのでしょう。この時点で心臓外科はやめとこうと思ったのを未だに覚えています。ですが、実際そこまで殺人的な忙しさが続く訳ではありませんでしたし、なにより手術手技とそこに至る理論が非常に面白いことに気づいてしまったのです。やはり面白いと思ったことを一生の仕事に選ぶべきだと考え心臓血管外科の道を行くことを決めました。

レジデント終了後、広島市民病院の心臓血管外科に2年間武者修行に行き、手技的にも考え方的にも非常に色々なことを学びました。成人心臓手術に関する私の中の基盤はここで学んだものを多く取り入れて形作られました。その後今度はCanadaに修行に渡りました。TorontoのThe Hospital for Sick Childrenの心臓血管外科でResearch Fellowを2年、Clinical Fellowを1年経験しました。ここでの生活は目から鱗の毎日で自分の中での色々なものの価値観や考え方が日々更新されていきました。北米屈指の心臓外科医達の技術や理論は衝撃以外何者でもありませんでした。その後もう少しCanadaで修行したいと考えた私はVancouverのBC Children’s Hospitalに直接交渉してさらに3年間のClinical Fellowを経験しました。手技ももちろんながら精神面の大切さも学びました。上手な外科医は皆精神面でも優れていました。あまりにも充実した生活を送っていたので日本に帰ってくるときには後ろ髪を引かれましたが今年私は日本に帰ってきました。もし心臓血管外科をめざしつつ留学も視野に入れているのならば、筑波大の心臓血管外科にも道はあります。どの道を行くにしても舗装された道はありませんが、あなたのがんばり次第で望む道を進めることはできると思います。

きれいごとばかり並べるのはあまりよくないので誤解のないように正直に書くと、心臓血管外科道は楽しいことばかりの道ではありません。長時間の手術、困難な症例、要求される高いレベルの技術。精神面も強くなくてはなりません。始める前から負け戦のこともあるでしょう。今の世の中心臓血管外科を目指すのは馬鹿なのかもしれません。だってもっと楽な仕事がいくらでもあるのですから。でも私はここまでの道を後悔していません。楽ではありませんでしたが面白い経験をさせてもらいました。心臓血管外科医でなければ味わえない場面もたくさんありました。やりがいなら他のどんな仕事にも負けないでしょう。心臓血管手術を面白いと思うのであれば、賭ける価値のある仕事だと思います。険しい道だけど進む意味のある道です。興味があれば、どうぞ。

今井 章人 医師 2004(平成16)年 卒

今井 章人 医師

私はH16年に筑波大学を卒業し、そのまま筑波大学病院の初期研修→後期研修→心臓血管外科入局という経過で現在に至っています。もともと循環器に興味があり、循環器内科か心臓血管外科か迷っていたところ、平松教授と故榊原教授とのご縁があって心臓血管外科の門を叩くこととなりました。
心臓外科領域は、直ちに生命に直結することが多く、手術・周術期管理と常に細部にまで気を遣っていかなければなりません。そのため、学ぶべきことは多く、他科に比べると修練期間も長く、独り立ちするまでに技術面、精神面で多くのハードルを越えなければなりません。もちろん私自身もまだまだ未熟であり、依然修練期間中です。さらに、正直なかなか自分の思うようにできないことも多く、つらいことも少なくありません。しかし、手術によって元気になり、退院していく患者さんをみる時の喜びややりがいは非常に大きなものであり、最大の魅力であると思います。

筑波大学心臓血管外科では手術手技だけではなく、患者さんに対する姿勢、外科医としての心構え、人脈の大切さ、研究・論文作成のノウハウ、論文の読み方など、たくさん刺激をうけ、多くのことを学ぶことができます。尊敬する上司・大切な同期・頼もしい後輩たちと仕事をできるのは、とても貴重なことです。さらに、チャンスがあれば国内留学や海外留学も可能です。私自身は縁があって国内では広島市民病院に2年間、海外ではフランスのボルドー第2大学の附属病院であるHôpital Haut Lévêqueに3か月の留学経験を得ることができました。そして現在アメリカのUniversity of Pennsylvania, Gorman Cardiovascular Research Groupに2年間の予定で留学中です。外国での生活は、言葉の壁からはじまり、お金、時間、効率など失うものも多く、何かと苦労もしますが、逆に得られるものも多く、現在の自分にとっては貴重な経験となっています。チャンスがあれば、特に若い人には、一度海外留学に挑戦してみることをお勧めします。また、国内留学すると普段は交わることのないほかの地域や施設の先生方と関わる機会が増え、それも貴重な経験となります。同年代の医師と比較することで自分の立ち位置を再認識することもできます。私個人の経験ですが、筑波大学での研修は他施設よりも充実していると感じました。

『ここで研修をすれば絶対間違いない』という場所は存在しないと思います。充実した研修を送れるかどうかは自分次第です。とにかく目標を持つことができれば、その目標は叶います。現実には臆病さや色々なしがらみのため、目標さえ定まらないこともありますが、それでも私たちは少しでも後輩の先生方の1人ひとりに満足してもらえるよう、努力を惜しみません。また、逆に私たちが後輩から教わることも多いので、交流を楽しみにしています。お互い高め合って研修を送ってみませんか?いつでも待っています。

中嶋 智美 医師 2008(平成20)年 卒

中嶋 智美 医師

私は現在卒後8年目、心臓血管外科のトレーニングを開始して5年目になります。これまで、ほぼ1年毎に大学病院と県内の一般病院を行き来しながら、さまざまな研修を積んできました。大学病院には大学病院の、市中病院には市中病院の特徴がそれぞれあって、扱う症例の特色が少しずつ違ったり、病院自身の環境が違ったりします。ある1箇所で経験を重ねることももちろん大切ですが、いろいろな環境を見ることで、またたくさんの先生方と出遭うことで、学ぶこと、気づかされることはたくさんあります。基本的なことはどこでも変わりませんが、物事の捉え方、対処の仕方のノウハウはその場面や環境、先生ごとに違います。その場面と幾度となく出会えることは毎回発見であり、いろいろな施設で研修することの意義なのだろうと感じています。

そんな中、私は今年度、海外での臨床研修の機会をいただきました。ベトナム、ホーチミン市にあるCho Ray病院の心臓外科で2ヶ月間研修をさせていただきました。ここの心臓外科は年間1200件程度の開心術を行っている、ハイボリュームセンターです。日本ではなかなか経験できないような圧倒的な症例数のなか、私は毎日1-3件の手術に参加し、見学ではなく、実際に手を動かしながら経験を積むことができました。もちろん、手術の基本は変わりませんし、現地で扱っている疾患や術式も日本と同様です。医療を取り巻く環境の違いを差し引いても、今の私が学ぶべきこと、学びたい・身に着けたいと思うことがそこにはたくさんありました。これだけの症例数を短時間にこなしていく彼らの姿を目の前で見ながら、一緒に手術、技術に向き合える時間はかけがえのないものであり、貴重な財産となりました。

正直、まだまだ学ばせてもらいたいことはたくさんあります。心臓血管外科は手術のみならず、自分の下した判断がすぐに結果として現れてくる診療分野だと思います。その分、ハードに感じる部分もありますが、そこから感じる達成感ややりがいもあります。ベトナムの先生方は、とにかく好奇心旺盛で、新しい知識や技術を貪欲に吸収していく姿が印象的でした。その姿勢を見習い、彼らに負けないように私もステップアップしていきたいと思っています。

研究/研修について